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ー 金属ねじでは対応できない現場課題をどう解決するか ー
設計や施工に携わる中で、「本当は金属ねじを使いたくないが、代替手段がない」
そんな場面に直面したことはないでしょうか。
腐食環境、電食、軽量化、非磁性、薬品耐性、絶縁性…。
要求性能が高度化するにつれ、金属ねじが必ずしも最適解にならないケースは確実に増えています。
そこで近年注目されているのが、スーパーエンジニアリングプラスチック製の特殊ねじ、
中でもPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を材料としたねじです。

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なぜ「樹脂ねじ」ではなく「PEEKねじ」なのか
一般的な樹脂ねじ(ナイロン、POMなど)は、「軽い」「錆びない」といったメリットがある一方で、
強度・耐熱性、耐薬品性の点で用途が限定されがちです。
これに対し、PEEKはスーパーエンジニアリングプラスチックに分類され、以下のような特徴を持ちます。
・ 連続使用温度が約250°C
・ 高い機械強度と耐疲労性
・ 優れた耐薬品性(酸・アルカリ・溶剤)
・ 非磁性・電気絶縁性
・ 吸水率が極めて低く寸法安定性が高い
つまりPEEKは、これまでの樹脂の機能性を大きく向上させた材料です。
金属ねじの代替として、
初めて検討対象に上がるレベルの樹脂材料と言ってよいでしょう。
設計現場でPEEK製特殊ねじが選ばれる理由
① 電食・腐食トラブルを根本的に防げる
異種金属接触による電食や、薬品雰囲気下での腐食トラブルは、
設計段階では見落とされがちですが、後々大きな問題になります。
PEEKは金属ではないため、
・ 電食が発生しない
・ 塩害・薬品環境でも腐食しない
といった点で、長期信頼性の担保につながります。
② 軽量化と部品点数削減につながる
PEEKは比重が約1.3と軽量です。
多数のねじを使用する装置や可動部では、
・ 全体重量の低減
・ 慣性力の低下
・ 組立負荷の軽減
といった副次効果も得られます。
「ねじ一本くらい…」と思われがちですが、
積み重なると設計思想そのものが変わるケースもあります。
③ 非磁性・絶縁が必須な装置に使える
医療機器、半導体製造装置、検査機器など、磁場や電気特性の影響を嫌う分野では、
金属ねじそのものがリスクになります。
PEEK製ねじであれば、
・ 磁場の影響を与えない
・ 電気的に絶縁できる
という点で、設計制約を大きく緩和できます。
「金属ねじより弱い」は本当か?
ここは正直に触れておくべきポイントです。
PEEKねじは、同サイズの金属ねじと単純比較すれば強度は劣ります。
しかし重要なのは、
・ 必要十分な締結力か
・ そもそも過剰な強度設計になっていないか
という視点です。
実際の現場では、
・ 強度は足りているのに腐食した
・ 電食で早期破損した
・ 絶縁が必要だった
といった理由で、金属ねじが問題を起こすケースも少なくありません。
PEEKねじは「万能な代替品」ではなく、条件が合えば圧倒的に合理的な選択肢です。
設計段階で判断が変わった「想定事例」3選
PEEKねじは、「最初からPEEKありき」で採用されることは多くありません。
実際には多くの現場で、
金属ねじを前提に設計 → どこかで違和感や問題が発生 → 代替案としてPEEKが浮上
という流れを辿ります。
ここでは、設計・施工現場で起こりがちなケースをもとに、
金属ねじからPEEKねじへ設計変更した想定事例を紹介します。
想定事例① 化学薬品を扱う装置内での「想定外の腐食」
▶ 初期設計
・ 使用ねじ:SUS304 六角穴付ボルト
・ 使用環境:薬品洗浄工程を含む装置内部
・ 想定:ステンレスなので問題なし
▶ 発生した問題
・ 使用開始から1~2年でねじ表面に腐食兆候
・ 定期点検時に固着が発生
・ 交換作業に想定以上の工数が発生
高い耐食性を持つ金属材料(SUS316(SUS316L)やチタン)へグレードアップを検討。
しかし、耐食原因を調査すると、薬品ミストと温度条件の組み合わせにより、
SUSでも耐えきれない環境であったことが判明。
▶ PEEKねじへの変更判断
・ 腐食しない材料が必須
・ 強度はそこまで必要ない(保持目的)
・ メンテナンス性を重視
→ PEEK製特殊ねじへ設計変更
▶ 結果(想定)
・ 腐食・固着が発生しない
・ 定期点検時の作業時間が大幅に短縮
・ 交換頻度が下がり、トータルコストが低減
→ 「強度」ではなく環境耐性を最優先したことで、結果的に設備寿命そのものが安定。
想定事例② 異種金属接触による電食トラブル
▶ 初期設計
・ 被締結材:アルミフレーム
・ 使用ねじ:三価クロメート処理鋼製ねじ
・ 使用環境:屋内だが湿度変動あり
▶ 発生した問題
・ 数ヶ月〜1年程度でアルミ側に腐食進行
・ ボルト周辺のみ腐食が集中
・ 外観不良としてクレーム懸念が浮上
典型的な異種金属接触による電食
▶ PEEKねじへの変更判断
・ 強度要求は中程度
・ 電食の根本対策が必要
・ 樹脂ワッシャ追加では不十分
→ 金属ねじそのものを非金属化
▶ 結果(想定)
・ 電食が発生しない
・ 外観品質が安定
・ アルミ部材側の設計寿命が向上
→ 「絶縁材を足す」よりも、ねじ自体を変える方が合理的だったケース。
想定事例③ 非磁性が求められる検査装置内部
▶ 初期設計
・ 使用ねじ:SUS316
・ 理由:非磁性とされているため
・ 装置:磁場の影響を嫌う測定器
▶ 発生した問題
・ 組立後、測定誤差が発生
・ 原因切り分けの結果、ねじ部の微弱磁性が影響
SUS316であっても、加工硬化などにより完全な非磁性とは言えない場合があります。
▶ PEEKねじへの変更判断
・ 確実な非磁性が必要
・ 熱や薬品条件は問題なし
・ 強度は締結保持レベルで十分
→ PEEK製ねじに変更
▶ 結果(想定)
・ 測定誤差が解消
・ 再設計・再検証工数が削減
・ 装置の信頼性が向上
→ 「ほぼ大丈夫」では許されない分野では、材料そのものの性質が武器になります。
PEEKねじは「逃げ」ではなく「設計判断」
金属ねじからPEEKねじへの変更は、コストダウンや代替品対応ではありません。
むしろ、
・ トラブルを予測し
・ 長期安定を選び
・ 現場負荷を下げる
設計力そのものが問われる判断です。
第一ボールト株式会社では、こうした想定事例をもとに、選定相談・図面ベース検討に対応しています。
「変更すべきかどうか分からない」その段階こそ、一番価値があります。