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2025.07.30
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建設現場で鉄骨構造の要ともいえる部品の一つが「高力ボルト」です。ボルトと聞くと小さな部品に見えますが、実はその性能や選定によって構造物の安全性や施工効率が大きく左右されます。

 

本記事では、高力ボルトの基本的な定義から、建設現場で重用される理由、さらに製品選定のポイントや施工時の注意点までを解説します。

 

 

 

 

 

 

 

1.高力ボルトとは何か?

 

高力ボルト(こうりょくボルト、こうりきボルトとも読む)とは別名ハイテンションボルトとも呼ばれ、通常のボルトに比べて高い強度(引張強さ)を持つボルトで、主に鋼構造物(鉄骨建築)の接合に用いられます。代表的なものにJIS B 1186で規定される高力六角ボルトF10T(強度区分10.9相当)や国土交通大臣認定のトルシア形高力ボルトS10Tなどがあります。

 

高力ボルトの特徴

  • ・非常に高い締付け力(張力)を生じる引張接合
  • ・すべり耐力(すべり係数に比例)による摩擦接合
  • ・締付けトルクとボルトに対する導入張力の関係がトルク係数として規定され、製品の品質として保証されている
  • ・手動式トルクレンチや電動レンチ(トルシア形ボルト専用締付機や回転角制御機能付締付け機)など専用の締付け機器を使用する

 

 

 

 

 

 

2.建設現場で高力ボルトが使われる理由

 

① 構造の安全性向上

高力ボルトは、一般のボルトとは違い強力な摩擦力による接合なため、地震や風圧、荷重変化などへの耐性に優れています。特に日本のような地震多発国では、ボルトの緩みやずれによる構造劣化を防ぐためにも、すべり耐力接合が選ばれる傾向があります。

 

② 現場施工性の高さ

高力ボルトは現場でのトルク管理がしやすく、施工品質を安定化できます。特に、トルシア形高力ボルトは締付け完了が視覚的にも確認しやすいので施工管理のしやすさも魅力です。

 

③ 様々な構造物に対応

高力ボルトは、ビルや橋梁、スタジアムなどの大規模鉄骨構造物に欠かせません。最近では、再開発案件や物流倉庫、データセンターの新設でも活用が進んでいます。

 

 

 

 

 

 

3.高力ボルトの種類とその違い

 

高力ボルトには複数の種類があり、それぞれに適した用途があります。代表的なものを以下に示します。

 

種類 トルシア形高力ボルト 高力六角ボルト 溶融亜鉛めっき高力六角ボルト ステンレス鋼高力六角ボルト
規格 JSS Ⅱ 09
(日本鋼構造協会規格)
JIS B 1186 JIS B 1186
認定 建築基準法第37条
(国土交通大臣認定)
  建築基準法第37条
(国土交通大臣認定)
 
セット ボルト:1、ナット:1、座金:1 ボルト:1、ナット:1、座金:2
等級 S10T F10T F8T F10T
締付方法 締付によるピンテール破断 トルクコントロール法 ナット回転法 ナット回転法
主な用途 一般建築、鉄骨構造 ビルや工場などの構造物 屋外や露出する場所など錆びやすい用途に使用  

 

 

 

 

 

 

4.高力ボルト選定のポイント

 

① ボルト径と強度のバランス

設計荷重に対してどの径のボルトを何本使用すべきかを判断する必要があります。細いボルトで本数を増やすより、太いボルトで本数を減らした方が施工性や材料コスト面で有利なケースもあります。最近では、M24やM27以上の高力ボルトを使用するケースも増えてきています。

 

② 使用環境と防錆処理

高力ボルトは錆びによる性能低下のリスクもあるため、必要に応じて溶融亜鉛めっきなどの防錆処理が必要です。溶融亜鉛めっき高力ボルトの代表的なものはF8T高力ボルトとも呼ばれ国土交通大臣の認定を取得しており、安心して使用できます。

 

③ 高力ボルトの締付け

高力ボルトを用いた接合部の性能を保証するためには次の2点が重要です。

 

・ 安定したボルト張力の導入
・ すべり耐力*の確保

 

これらを実現するには

 

  • ・品質(トルク係数値)が安定しており、締付け管理方法が確立された高力ボルトを選定すること
  • ・適切な摩擦面処理方法を選定し、摩擦処理面を管理すること
  • ・接合部の組立において部材の密着を確保し、孔ずれを防止すること
  • ・ボルトの締付けでは適切な機器を選定し、締付け手順を遵守すること

 

 

 

 

 

 

5.現場での施工時の注意点

 

① 締付けトルクの確認

高力ボルトの最大のメリットは摩擦による接合力にあります。したがって、規定トルクでの締付けがなされなければ意味がありません。トルクレンチやトルク管理装置による定期的な確認が不可欠です。

 

② 表面処理や潤滑剤の使用

施工性を高めるために潤滑剤が使われることもありますが、接合面に油脂類が残っていると摩擦力が低下し、設計上の性能を発揮できなくなります。接合面の清掃・乾燥は必須です。

 

③ 製品のロット管理

ロットによって材質やコーティングの状態が異なる場合もあるため、製品ごとのトレーサビリティ管理は厳密に行う必要があります。

 

 

 

 

 

 

6.第一ボールトの高力ボルトへの取り組み

 

当社では、F10T、S10TやF8Tをはじめとする各種高力ボルトを在庫・販売しています。その他、ワンサイド施工可能な高力ボルト(ハック高力ワンサイドボルト)、特殊コーティングを施した高力ボルト、超高力ボルト(スーパーハイテンションボルト、SHTB)など、現場ニーズに応じた製品を柔軟にご提案しています。

 

 

 

 

 

 

7.まとめ

 

高力ボルトは、鉄骨構造物の“見えない安心”を支えるキーパーツです。その性能や選定、施工管理には高い専門性が求められる一方で、正しい知識を持つことで現場の施工性や安全性が飛躍的に向上します。 第一ボールト株式会社では、今後も建設現場の実情に寄り添いながら、確かな製品と技術情報を提供してまいります。ご質問や製品に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

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