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六角ボルト・ナットの附属書規格(旧JIS)と本体規格(新JIS)の違いと現状 ―なぜ今も現場で混乱が起きているのか―

Contents

  1. 1.はじめに
  2. 2.本体規格と附属書規格とは何か
  3. 3.本体規格が推奨される理由
  4. 4.では、なぜ今も混乱しているのか?
  5. 5.設計・施工で押さえるべき実務ポイント
  6. 6.これからどうなるのか?
  7. 7.我々ねじ商社の役割
  8. 8.まとめ

はじめに

「同じM12なのに、工具が合わない」
「図面通りに手配したのに、現場で使えない」

 

このようなトラブルの背景にあるのが、附属書規格(旧JIS)と本体規格(新JIS)の混在です。

 

2014年のJIS改正により、本来は本体規格への移行が進むはずでした。

しかし、改正から10年以上が経過した2026年現在でも、現場では依然として付属書規格が残り、混乱が続いています。

 

本記事では、その理由と、設計・施工の現場で押さえるべきポイントを解説します。

 

本体規格と附属書規格とは何か

まず前提を整理します。

 

日本ねじ研究協会による「JIS B 1180(六角ボルト)及びJIS B 1181(六角ナット)」に対する改正作業において、現行規格のJISとしての附属書(規定)を廃止することになりました。

 

・附属書規格(旧JIS)

従来使われてきた国内仕様の規格(1985年改正で附属書化)

・本体規格(新JIS)

ISOに準拠した国際標準ベースの規格

 

2014年の改正では、附属書の内容は残しつつも、「新しい設計では使用しないことが望ましい」と明記されました。
つまり本来は、以下のような使い分けを意図されています。

  • 設計:本体規格へ移行
  •    新規設計においては、国際標準ベースである「本体規格」を採用する。
     

  • 補修:附属書を継続利用
  •    既存設備のメンテナンスなど、補修用途として「附属書」を使用する。

本体規格が推奨される理由

1. 締結の信頼性が向上する

本体規格では、ボルトとナットの組み合わせが明確に定義されており、この規格を採用することで、確実な締結に向けた効果が期待できます。

  • ねじ接合部の試験基準の明確化
  • ボルト強度を最大限活用
  • 適正な締付け力を確保

一方で、附属書は組み合わせに関する規定が曖昧であり、設計上のリスクが残る点が大きな違いです。

 

2. 国際標準(ISO)との整合

本体規格はISOに準拠しており、グローバルな運用において多くのメリットをもたらします。

  • 海外調達との整合
  • グローバル設計対応
  • 品質基準の統一

 

3. 寸法・強度・設計思想の最適化

例えば代表的な違いとして、下記があります。

  • ナット高さが増加(せん断耐力向上)
  • 強度区分が変更(5T → 5 など)
  • ワッシャーフェイス(座金面)の追加による締め付け安定性の向上
  • 部品等級(A・B・C)による精度管理

つまり本体規格は、「単なる寸法変更ではなく、設計思想そのものがアップデートされている」と理解することが重要です。

では、なぜ今も混乱しているのか?

結論から言うと、需要(ユーザー側)と供給(メーカー側)のギャップにあります。

■ 設計側(ユーザー)の状況

  • 本体規格で設計するのが原則
  • 安全性・合理性の観点からも本体規格が前提
  • 仕様書・図面は新JISベース

■ 供給側(メーカー)の現実

  • 流通の大半は依然として附属書品
  • 本体規格品の生産量が限定的
  • サイズ・材質によっては供給が不安定

実際に2014年時点でも「一般流通品はほぼ附属書品」とされており、この構造は現在も大きくは変わっていません。

 

■ 現場で起きている典型トラブル

異なる規格が混在していることで、実際に業界内でも「規格確認不足によるクレーム」が報告されています。

  • 二面幅違いでスパナが入らない
  • 図面は本体規格、納入は附属書
  • 強度区分の誤認
  • 在庫混在による誤出荷

設計・施工で押さえるべき実務ポイント

ここが、トラブルを未然に防ぐために最も重要なポイントです。

1. 必ず「規格」を明記する

    △不十分な例
     

  • 「六角ボルト M12」
    ○望ましい例
     

  • 「IS六角ボルト(本体規格)」
  • 「JA六角ボルト(附属書)」

このように呼称を明確にしなければ、現場にどちらが納入されるかは「サプライヤー次第」という不確実な状態になってしまいます。
 

2.本体規格採用時の調達確認

設計上の標準は本体規格へと移行していますが、流通量は依然として附属書の方が多いのが実情です。設計段階で確認を怠ると、現場での作業が滞ってしまいます。

  • 納期
  • サイズ展開
  • 表面処理
  • ロット

 

3. 在庫・現品の混在管理

  • ラベル・表示による視覚的ミス防止
  • 識別マークによる現品確認
  • 物理的な倉庫・エリア区分

規格の混在は、事故の温床です。

 

4. 寸法違いを理解しておく

特に、見た目が似ている製品ほどわずかな違いが見逃されやすいため、注意が必要です。

  • 二面幅(スパナサイズ)の不一致
  • ナット高さの差異による締結不良
  • 頭部形状

 

これからどうなるのか?

附属書は将来的に廃止方向にありますが、実際には以下の要因により、すぐには無くならないのが実態です。

  • 既存設備の膨大なストック
  • 補修需要
  • コスト・供給問題

つまり今後も当面は、規格の「共存状態」が続くと考えるべきです。

 

我々ねじ商社の役割

この混乱の中で重要になるのが、「需要と供給をつなぐ存在」です。

私たちの役割は単なる販売ではありません。設計上の理想と流通の現実の間にあるギャップを埋めること、それこそが当社の使命です。

  • 設計意図の理解
  • 規格の適合確認
  • 供給可否の判断
  • 代替提案
  • 現場トラブルの未然防止

つまり、“規格の翻訳者”であり“現場のリスク管理者”です。

 

まとめ

規格の移行期にある今、私たちは”附属書規格(旧JIS)と本体規格(新JIS)の現状”を共通認識として整理しておく必要があります。

  • 本体規格は設計上の標準(ISO準拠)
  • 附属書は依然として流通の主流
  • 両者の混在が現場トラブルの原因
  • 明確な指定と管理が不可欠

そして何より重要なのは、 「規格を理解しないまま使わないこと」です。

規格の違いは、単なる“知識の問題”ではなく、現場で事故を起こすかどうかの問題に直結します。

「同じM12だから大丈夫」ではなく、その一本がどの規格なのかを正しく見極めること。

そこに目を向けることが、安全で確実な締結につながります。